Bartok Gallery  イラストレーターがスターだった時代があった 
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椎根和
元マガジンハウス取締役編集総局長
Hanako創刊編集長、relax創刊編集長。5年間猫相手の生活後、
現在は横浜中華街で気楽に中華薬茶の喫茶店を開いている。


第5話『戦後最高のデッサンの名人』宇野亜喜良

宇野亜喜良が描く女たちは、ますます悽艷になっている。いつの世も、現代にも、理由もなく病み疲れている女たちはいる。そういう女たちを、日本の画家たちは江戸時代以来、浮世紀の春信、大正時代の竹久夢二、昭和の伊東深水という美人画の流れをたやさなかった。

春信、夢二、深水という画家の絵を好きになり、買いこんだのは、男性より女性の方が圧倒的に多かったと思う。日本の女性は、理由もなく病み疲れている状況に置かれている女を昔から好んでいた。むしろ、そういう状況に自分の身を漂よわせてみたいという無意識下の願望といえるかもしれない。

20世紀から21世紀にかけて日本のそういう画家の代表は宇野亜喜良の女たちだ。もちろん、春信、夢二の時代とちがって、若い女性たちが自由に外国へ行ける余裕もたっぷりある社会になり、宇野の女たちは日本を離脱して無国籍の美女になる。

さらに宇野の美女たちは、美と醜というふたつの相反したものを、自分のひとつのカラダ、顔に飼育し、調教をしている。これは宇野自身が先天的に持っている才能から発せられるものだ。

ぼくは、1968年頃に「平凡パンチ」のために五枚のカラーのイラストレーションの仕事を宇野亜喜良にたのんだ。その締め切りも10日間しかなかった。ぼくの企画は、ヨーロッパの名画をパロディ化して作品にして下さい、というものだった。宇野がすぐ完成させてきたこの名画パロディ作品のひとつを説明すると、ミレーの「晩鐘」を忠実に、そっくりに色彩と背景を再現し、そのなかに農民夫婦が原画とまったく同じポーズで描かれていた。ミレーの絵の中では夫婦は帽子を手にかけ神に感謝の祈りをしている。宇野さんのパロディ絵では、農夫が指を組んで神に祈っているのだが、帽子は、農夫の腰あたりの前面にかけられている。つまり勃起したペニスにかけられているという図柄だった。もちろんペニスは描かれていない。この他にもダリの絵をパロディ化したものもあったと思う。

この作品群がパンチに掲載されると話題になり、ぼくはグラフィックデザイナー、イラストレーターの人たちと、アキラックス(当時、仲間うちでは宇野さんはサインの形によって米国製洗剤みたいな名で愛称されていた)の絵について語りあったが、彼ら、イラストレーターたちが一致して同じことをいった。それは、「宇野さんは、グラフィック界随一にデッサンがうまいひとだから…」と全員があきらめたようにいっていた。もちろん現在もデッサン力が凄くて、素人の目には、宇野さんの絵、ちょっとゆがんでいるんじゃないか、と錯角させる。デッサンが完璧に近くなるとなぜか、ゆがんでいるように見える。たとえば、15世紀フランドル派の画家、ヴァン・デル・ウェイデンの描く中世の若い娘の顔のように。

 












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